2015.05.09
積善館の温泉
明治の落語に登場した積善館 ~その5~
腰が温まり草臥(くたび)れがぬけます
(原文)
「だがよい湯で
塩気があって透き通るようで極きれいです。
玉子をゆでている奴があるので
手拭いに包んで玉子を湯につけておくと
芯が温まるという、どういう訳かと皆に聞くと
黄身から先にゆだって白身が後からゆだるという
嘘だろうというと本当だと番頭も言ったが、
白身はなんともない、黄身が温まるので、上の方が温まらねえで芯がチャンと
臍の下が温まるので心臓、肺臓など温まるので
こんな嬉しいことはありません。・・・」・・・
「ヘエ 腰が温まり草臥(くたび)れがぬけます。入ってお出でなさい・・・」
積善館の温泉玉子
温泉卵は昔も今も変わらない温泉地ならではの人気の食べ物ですね。
今でも積善館で売られております。(2018年現在は販売しておりません)
温泉卵の美味しさの秘密が積善館の湯の効能にあったという事実を、130年以上も前に作られた円朝の落語から教えてもらいました。
江戸末期から明治初期の人物や風景が活き活きと現れて来る
今回、この温泉と歴史シリーズ『明治の落語に登場した積善館』を書くにあたって、岩波書店発行の「円朝全集」第八巻に掲載されている『霧隠伊香保湯煙』を、全て声に出して読ませていただきました。
読みながら驚いたのは、落語として語られたお話だけあって、会話の部分はもちろん、情景描写がとてもリアルに描かれていることでした。
読んでいると、目の前に江戸末期から明治初期の人物や風景が活き活きと現れて来る様でした。
医療や薬が発達していない時代に、四万温泉の効能を求めて遠くから積善館を訪れた様々なお客様達の様子、それを迎える店の者や地元の人々の様子、それ等の人々の心の動き、喜怒哀楽・・・
まさに「三遊亭円朝自身が私に語りかけてくれている」・・・そんな感じでした。
機会がございましたら、皆様も是非この物語に触れてみて下さい。
参考文献:「円朝全集 第八巻」(岩波書店)
「円朝ざんまい」(森まゆみ著 平凡社)
特に、岩波書店編集局全集編集部の大矢一哉氏に感謝を申し上げます。